
グラフィックデザイナーの娘へ。
『倫敦巴里』を手に入れた。本を開くと、和田誠さんが、「はい、ここ笑うところですよ」とウインクしてくる気がする。あの軽やかさには、あなたもきっとすぐ仲良くなれるだろう。似顔絵を描く人にとって、この本は小さな秘密の参考帳みたいなものだ。
ただね、ひとつだけ小声で伝えておく。和田さんの時代のユーモアには、今読むと「おっと、これは……」と少し肩をすくめたくなる“いじり”の感覚が、混ざっていることが多い。
もちろん悪気なんてまったくない。でも、時代が変わると、笑いの温度も変わるんだよね。昔の服を今着たら、「丈、短っ」と感じる、あの感覚に少し似ている。
それでもこの本はきっと、あなたの味方になると思う。構図や線の遊び方、表情の拾い方、さりげない茶目っ気の足し方――その全部が、あなたの手の中で新しい形に育っていくはずだ。
もう、あなたの似顔絵は、たくさんの人に愛されている。
そこには、「誰も傷つけない」という、やさしさの頑固な芯があるからだ。
(2026.5.29 出張実家 )