
年を取ると、人はなぜキレやすくなるのか。
どうやら原因は“加齢”というより、体内のどこかにある謎のスイッチらしい。
ある日突然、テレビに向かって文句を言い始める。
しかも厄介なのは、地震と同じで予兆がないことだ。
「あ、来るな」と思った瞬間には、もう揺れている。
震源地は自分、震度5強。
もちろん、理性のプレートをずらしたのは自分自身だ。
あとから自己嫌悪の余震が、じわじわ長く続く。
そして最大の被災者は、たいてい妻である。
いきなり、家庭内災害に巻き込まれるのだから、たまったものではない。
世の中には、「老人は怒ってこそ本物」と、
豪快に言う人もいる。
言いたいことを言うのが、老後の自由らしい。
でも僕には、あれが自由というより“排水”に見える。
日々たまった不満を、ザーッと外へ流しているだけ。
しかも最近は、SNSという高性能の排水管まである。
昔なら居酒屋で蒸発していた愚痴が、今では世界配信だ。
本人はスッキリしても、受け取る側はたまらない。
人は、他人の感情のゴミ箱にはなりたくない。
だから静かに距離を置く。そして気づけば、縁も遠ざかる。
高齢者の孤独は、案外こんなふうに始まるのかもしれない。

だから僕は今月から、“怒りの耐震訓練”を始めた。
自分を嫌いにならないために。
そして妻に見捨てられないために。
目標は高くない。
せめて、“震度3くらいで収まる夫”になりたい。
(2026.5.22 2004年製のDENON・D-AZ03を買った)